さんびゃくはちじゅう




さんびゃくはちじゅうに渡る大空に
堪えきれないような悲しみがあって
世界のどこかで今日もこどもが泣いている


かわいそうにといいながら我々は
腹一杯食べたり
あるいは食べなかったりする
あたしの幸せのために
誰かのあしたがどこかでしぼんでも
それは別だ 実際別だ


今 目の前の小さな親切や
遠くでの大きなお世話に拍手を送りながら
我々は鬼のようになっているのではないか?
どこかで誰かの命を食べる
殺人鬼になっているのではないか?
知らないだけではないのか?
地獄の前で借金に
気付くんじゃないかってそういう恐怖


けれどもこの苦悩はもはや
我々のものではない
我々の苦しみはただ
家の中や学校や夕方に浮かんでいる
とてもグローバルな時代の
とても贅沢な悩み
けれどそれ以外は実際
受け付けなくなっているのだ


私はもう
言葉を紡ぐことなど辞めてしまおうか
日本語はもう
不幸を語ることなど出来ないようだ
どれだけ書いたところで
どうせ三面記事になってしまう


けれども ああ
さんびゃくはちじゅうどを埋め尽くす
悲しみから遠い いかれた荒野の彼方から
私はやっぱり
戻ってこなくてはならない
小賢しい刹那の知恵を捨てて
戻ってこなくてはならない
そのために出発は
本当のところから出なくてはならないのだ


この気恥ずかしさを
あの人が笑っても
私はここに立っている
そして貧しさを噛みしめながら
どうしても どうしても
山のあなたを志向するよ









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