古い亜米利加人の気持




昔地面からそうも遠くなかった児童の頃には
大人と言うものは何もかも知っていて
きっと世界の苦労を霧散する
秘密の呪文のようなものを知っているのだろうと思っていた
第一に彼らは私の容量の悪さを叱ったからであり
第二に私には神がいなかったから



そして彼らと同じ年齢に苦労も無く到達してしまって
彼岸を眺め回して思う
何もかもが一体昔のまま
ひとつの答えも無く
ひとつの解決も無いまま
ただ忘れられたふりをしている



呪文はどこへ行ったのだろう
正義はどこらへ生息しているのだろう
私はまるで約束を破られたときのように
ひどくさびしい心持ちになった



ただ約束はまったく消えたわけではない
スイッチを入れるとブラウン管の世界にはそれのあふれている海
ややほっとするも考えてみれば どうもそこに用事がない
ようやく失望するのを止めて私は思う



いつだって人の目の前には答えのない圧倒的な無が
空にぽかりと空いた無常の石炭袋 その不条理が必要なのだ
暖かき手をもつ全能の父を知らぬ我等なれば
ゴミ箱以外のどこに安らぐと言うのだ 屍?



確認できぬ旅路だからこそ安穏と進むのだ
見えぬ未来だからこそ夢と描いていられるのだ
真実と真実の間に隙間を欲する人の弱い心を知り
そして私は
フロンティアの開拓する道の先で
ばったり人間に出会ってしまった古い亜米利加人の気持がわかった







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