■電子レベル通信 ■








雨の匂いに思い出される人がいる。
決まって貧しく小さな人々の、
ささやかなオルゴォルのような思い出。
張り巡らす。


分子レベル通信 ぴー
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あなた、元気にしていますか?




船着き場で会った三十半ばのアンナ・マリアは、
とても格好のいい黒い服で
文句一言も許さぬとばかりに腕を組んでいた。
けれどふくらはぎの後ろで黒いタイツには、
大きな穴があいていた。
 気がついているのかな、どうなのかな。
目が合うと彼女は「おはよう」と言ったので、
僕も「おはよう」と返す。
「寒いわね」
そうだね。


分子レベル通信 ぴー
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あなた、元気にしていますか?




 学校に来なくなったイムちゃんは、
助教授に失恋したのだと。
毎夜夢に奥さんと、子供が出てくるのだと爪を噛む。
そうして彼女は21の、
引く手あまたなはず夜を悶々と過ごす。
 これが恋なのかな、どうなのかな。
「さようなら」と言ったら彼女も手を上げて、
「さようなら」と返す。
教えて、今は
どんな夢を見ているの?


分子レベル通信 ぴー
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あなた、元気にしていますか?




今日は朝から雨だったね。
濡れたら世界は地面に深く映えて二倍の広さになる。
そして分子レベルの小さな手はますます小さくなるばかり。
きっと僕等は向こうから何が来るのか知らないで
線路を歩くちっぽけな子供のように、
砂利道を危なっかしく歩んでいるのだろう。
今来るか 今度こそ来るのか、
そんな期待に胸弾ませながら、
それでもアンテナを伸ばそう。


分子レベル通信 ぴー
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・・・ね、
あなた、元気にしていますか?







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