Buona Notte



天から墜ちるみたいに
落ち込んで行くんだ
頭がめりめりとのめり込んでいく
身体が落ちる
路傍へ果てる


爪や
湿り気や
髪の毛や
唇や
筋肉や
骨や


一体この遠いポンプの音はなんだろう?
これは田舎で祖母が汲んでいた
あの苔むした井戸の軋る音
曲がりくねった背骨が恐ろしくて
夜中には包丁を研いでる気がした
おばあちゃんごめんよ


二の腕や 
小指や
鼻や
冷たい耳たぶや
肋骨や
靱帯や


この一面に赤い世界はなんだろう? 
これは中学校の帰りに見た
西に漂う太陽 
線香花火の断末に見えて
盛んにふうふうやったもの
そのせいか夜はすぐ来た


毎夜死んでゆく細胞や記憶が
意識の途切れる瀬戸際で泡立っている
弾ける度に心が痛む
大事にしてと連中が騒ぐ


すでに連続殺人犯
毎日一人の自分を葬る
目を閉じて数時間の黙祷を捧げ
さようなら本日の自分
船に乗った屍が
あちらこちらでつまってる


しばし抜け殻
楽にやる
時々地震に生き返るけど
概ね安らかに死んでいる
Buona Notte.と死んでいる


「けれど朝には蘇る」

 


 
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