出ていけないよ

　エデンの園から出ていけないよ
　春の風が呼ぶんだ　白い腕で
　外は辛い　危ないわ
　柵の向こうに遙か広がる
　この花園から出ていけないよ







　服を棄てて行けないよ
　恥だと囁く　本物じゃないと
　相手に心を見せちゃいけない
　安全なのはここだけなんだよ
　思い切りよく飛び込めないよ







　夕日を越していけないよ
　古い書物が言うんだ　咳払いして
　果ては滝になっている　行けば戻って来れないと
　あんなにも差し招く夕日をさえ
　僕は越していけないよ







　ここには南風が吹いている
　けれど死ぬのはここじゃない
　寂れて無人となったエデンではなく
　熟れる果物の時期に楽園を棄てよう
　優しい手　全てに決別をしよう
　わざわざ荒野に行きだおれる
　そんな馬鹿もいるさ








　静寂から出ていけないよ
　音がないんだ　風は吹くのに
　叫び声も聞こえないんだ　夢のようだね
　全てを棄てる覚悟が無くては
　この墓場から出ていけないよ