緑夜香水






 おしたり
ひいたりするように
雨が降っている
誰に見られるためでもなく
何かに益するためでもなく
無論泣いているわけでもない
雨がただ
降っている


 雨のように流れて行く
そうやっていけないのは何故
胃袋があるからなのか
それとも使命があるから
一歳で親に殺される子供
百歳手前で猥褻な人
黄金律があるとは
とても思えないけれど


 瞳の上に雨がたまる
押し出される時を待っている
けれど泣いたら全てが終わってしまう
後はただ蒸発するだけ
流してしまえば一切がそれぎり
しっかりと噛んでいよう
先にそれとも寝てしまおうか


 おしたり
ひいたりするように
雨が降るんだ
うつくしい人の
うつくしい追憶が
引き延ばす春の夜
滴のように孤独を潤す
あのいい匂いの言葉が足りない


しかも今夜は格別に
どうも喉が乾いているよう
外で雨なんかが
やたら淑やかに降ったりするから










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