東風に惑う □□





山のあなたに幸いないのだとしても
この慕情はこちらになければあなたとしか言い難し
貴方 何も慕情といふものは
男が女を想ったり
女が男を想ったりするものばかりでない



切なさに対する懐かしさも在る
あなたに追い求めるのは
今正に其れであり
私は静まり返ってしまった日常の
凪のような寂しさが憎い



山のあなたに幸いないのだと泣けども
こちらに真実なければあなたとしか言い難し
千年走らばあなたは逃げる
だからあなたを追えば千年といわず貪欲に
走りつづけていられるのだ



そうして山のあなたを喰らいながら
愚痴を吐きつつ渋々と進んでいく私の
なんと大食で醜いこと
あなたにも 貴方にも 私は遠い
人はまた指差して幸いのことを云えども
お前に走る資格が有るのかと東風に惑う





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