JR
「毎日、
積み重なっていく失望に魂が少しずつ
酸化していくのが分かる。
色が抜け、褪せて、かちかちになるのだ。


洪水のような消費の日々。
集まってくる金の渦。
いいのさ。それは。
たとえ遠い地では血の雨が降っても、一旦始まってしまったものはとりあえず、しまいまで回してみるしかない。


――――けれど
峻烈なものはどこに行けば見つかる?
代わりの美しいものは。


皮膚は毎日磨かれて新しい服を着るというのに、人の内部は冷蔵庫の奥の古い野菜のようにしなびていく。
それは、そう。
放りっぱなしでいるからさ。
そんな腹が減ったような目で、女を見たり、 街をうろつきまわるのはやめたらどうだ。



どこに行っても宣伝文句――――三文話が多すぎる。
負けるだの、勝つだの、やれるだの出会えるの、魅力だの、簡単だの、そうでないのと。
マウスをクリックするたびに、歩くたびに、話すたびに、音楽を聴くたびに、ストーリーはコピーされ口元から、手から、足先から、
全身から、
ごぼごぼと溢れ出して日夜を作っていく。


疲弊する。頭はそれで一杯になる。
何故か受精の絵づらだけども、魂の細胞壁の周囲にまで、そいつらは迫っている。


あと一息で侵入されそうだ。
遺伝子を書き換えられてしまいそうだ。
世界には自分からそうして、流行の文体で頻繁に自分を 塗り替える奴もいるけれど、
俺は何となく、いやな気分だ。



俺は一生涯、所在なく、不安で、
人間みたいな心地でいたいのだ。



九割九分は不毛でもいい。
でも最後の一分は俺にくれ。
俺はそこで舞台をやる。
ひとときあなたと、灯りの下で語り合えたら他には何もいらない。
意味も賞もいらない。
そこが俺の棲家なのだというわけだ――――



だから舞台の上で嘘をつかれると、
俺は死んだような気分になる。
勿論俺だって弱さに負けて嘘をついたことがある。
そうしたら透明の手が止めに入った。
少女のかたちで。



友はそれを責める。裏切りだと。
いや…。最初に自分を裏切ったのは自分自身だったんだよ。
人は一人では何も出来ない。
嘘じゃない。芝居をご覧。
助けは絶対に必要だ。



だから頼む。
君の誠意が、この世界の天井を支えているんだ。
そしてお願いだ。
どうかずるをしないでおくれ。嘘をつかないでおくれ。逃げないでおくれ。
一分のこの、狭い部屋の逢瀬でまで。



幕がはね灯りが消え装置がばらけたら、
君は出され、かえっていく。
雨に濡れたアスファルトと薄暗い地下鉄の、現実の世界へ。」










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