11.ヌクテについて





「困るよ、ヌクテ…」
「大丈夫だ、すぐ済む」
「見られたらどうするんだ」
「3分32秒だ。誰か来たら適当に誤魔化してくれ」
「そんな芸当が僕に出来るわけないだろう?!」
「シーッ」
 僕のバイトしていた電子文書館のゲートを乗り越えて、もう明かりも落ちていた館内を控え室までやってきたヌクテは、うろたえる僕を端末から退かすと、持参の外部メモリーを差し込み、なにやら物凄いスピードで操作を始めた。
「文書館のコンピュータに何の用だ?」
「壊してるわけじゃないから安心しろ。ちょっと細工しに来ただけさ」
「法律違反だろ」
「5470みたいなこと言うなよ。…お」
 と、ヌクテの注意が深くなる。扉の前にヒヤヒヤしながら立っていた遠目の僕にはよく分からなかったが、操作が弾かれたらしい。
「おかしいな。そんなはずがないが…」
ひとしきり、見たこともない画面が走ったかと思うと、
「おーおー。誰か下手な奴が間違えてやがる。…三日前に資源局の誰かがメンテに来ただろ」
「え? あ、ああ来たよ。それ以来どうも検索システムの反応がのろいんで、また頼もうかって話に…」
「直しておいてやるよ。単純なミスだ。人間がしたな」
「ヌクテ、3分過ぎたぞ」
「5分延長」
「勘弁してくれよ」
「検索がスムーズになるんだ。それくらい目をつぶれ」
 結局、緊張も行き過ぎて気が抜けたようになってきた頃、ヌクテの作業は終わった。彼は慌てる様子もなくメモリを引き抜くと、
「悪い悪い」
と言って僕に端末を返した。最初と同じ画面になっていたものの、何をしたのか不気味で仕方がない。少し批難を込めてヌクテを見たが、けろりとしたものだ。
「まだ仕事か? アルコール飲まないか? もう18超してるだろ?」
「………」
「そう睨むなよ。外でなら何したか話してやるぜ?」






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