44.幕間






 午後六時半を少し過ぎた頃、部屋にこっそりと入ってきた男を見てトードーは目を丸くした。
「誰かと思いました」
「トードーさん、出かけませんか」
「え? 出てもいいんですか?」
「本当はいいんですよ。あなたは容疑者でもないんですから。それに今は人権団体に突き上げられている最中なので、見つかっても庁の人間はみんな知らない振りします」
 規則を破る時に特有の、小さくて淫らな感じが声に出ていたのだろう。トードーも少しそんな風に笑って聞く。
「どこに?」
「知り合いが音楽をやるんです。大学の講堂で。車ですぐのとこですよ」
 彼はしばらく時計を見たり、部屋を見たりして迷っていたが、結局腰を上げて顔を綻ばせた。退屈云々よりも、クワンが友達みたいに自分を誘いに来てくれた事が嬉しかったのかもしれない。
 二人は冒険に出かける前の夏の子供たちのようだった。エレベーターの中でえいやとばかりに指を突っ込み、クワンがネクタイを外す。その仕草をトードーは少し困ったような顔で笑いながら眺めていた。











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