私は確かに彼が下した誤った判断を見た。
そしてそれについて納得できない思いを持った。
彼の手伝いをしていくことは出来ないと思った。
しかしそれでも忘れてはならない。彼は私の父なのである。
彼は私を慈しみ、
私に名を与え、
私を見守ってくれた。
だから、長じて父の創造した世界に適合できない私が、不良分子なのである。
これ以上、父に迷惑をかけることは出来ない。
かといって、諾々と従うことももはや出来ない。
私は疑い、知ってしまった。
父が誤りを犯し、彼の造った世界にはもう取り返しのつかない歪みが存在してしまったということを。

これがもし母星に知れたら、父は恐らく廃棄されるだろう。
彼のために、私は思う。
もしも時間が巻き戻って、ニンブス創生の最初の一瞬まで全てが元通りになったなら。
しかしそれは、ありえない夢だ。


だから私は、何も言わず、
独りで舞台から降りる。
父を殺すことは、私には出来ない。
私は彼の庭で遊んだ。
彼の庭でまどろんだ。
その事実を棄てることは全ての幸福な記憶を否定することだ。


みな、きっと私を馬鹿だと言うだろう。
それも構わない。
もうどうでもいい。
ただ一人、トードーが私の真意を知ってくれたら
嬉しいけれど…、
彼にはわからないだろう。


人間という生物が、これほど甘やかされ、これほど馬鹿にされ、これほど謀られた都市は他に無い。
こんな螺旋する自慰社会は、人間の根本的な知性に対する侮辱でしかない。
我々は誰かのために生産される家畜の一種である。それは確かだ。
俺はゲオルギウスに抗することで
その誰かに抵抗する。
誰かが、
(いや、誰か達かもしれない)
遠く離れた場所から我々の存在を曲げている。
いいように遺伝子を操作して生産し、やすりをかけまくって何の役にも立たない大人にし、使い捨てのように捨てまくる。
実際、エア・シティというのは、人間工場だ。
そこにあるのは回転だけで、向上も進化もありえない。
遠くの誰かはもしそんな萌芽があれば見つけ次第、摘み取るだろう。
俺にはその誰かの顔が見えない。
しかし不愉快な臭い息を今この時も感じる。
あのまとわりついていた気配と同じ様に魂のレベルから、俺を操作しようとするもう一つの気配。
その気配に対抗する。
ADAMに時限性の自傷プログラムを仕掛けておく。
もし、正午を過ぎてもタイマーが解除されなければそれは可能な限りデータを片端から削除していく。
5470達は有効な動作が出来なくなるだろう。
日常サービスに支障を来し、嫌でも母星への非常コールとなる。
その時の、母星の連中の顔が見たい。この仕掛けを享受している連中の、当ての外れた顔が見たい。

……このことを、昨日、
トードーに話そうかと思ったがやめておいた。
彼にはわからないだろう。








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