――――今日は、お別れを言いにきたよ。
 あの時は…、僕のために言ってくれてありがとう。
きっと自分の子供にするように言ってくれてありがとう。
あなたのおかげで僕は……なんとか、なった。
ただ今日は、あなたのその優しさに、お別れをしにきたよ。
 大丈夫になったんだ。僕は身長が伸びて、それなりに受け止められるようになったんだ。
そうであって欲しい世界と現実の世界の落差につまずかないで、その先へ行けるようになったよ。
まだまだ、これからだけど。
 ……面白いね。僕は青二才の頃信じてなかった。人間は一人では生きて行けないというありがちな警句を。
でも一人では生きて行けなかった。
 技術を磨けば他人を害さずに生きていけると自信をつけていた頃もあった。でも現実には僕の生存は他人の死で贖われている。
 そうやって他人を害する自分―――――生きる為にどうしても他人を食べる自分を、誰かに許してもらわないといけない。誤魔化してもらうんじゃなく、許してもらわないといけない。
 あなたはあの時言った。
『そんなふうに考えては駄目。お母さんは運が悪かったのよ。あなたのせいじゃないのよ』



それを暖かい霧で包むのはもうやめよう。
僕のせいだったよ。
そうだろう?
本当はそうだろう?
全ての子供は母親の栄養素を奪い取って生まれてくるものだろう?
 あなたも与えたはずだ。そして許したはずだ。自分の、…子供なんだから。


 ……やっと、この年になって分かってきたよ。
世界ってのは、本当に混沌としているね。考え一つで、まるでその有り様が変わってくる。
 だから簡単には決められないよ。僕の考えが、世界の形を決めるんだから。
 どんな汚いものでも見るよ。何度でも考えるよ。どうもそれが僕の、人生らしい。
 今までありがとうシーラ。
また来るよ。今日はこれから仕事だから、ひとまずこれで、シーラさよなら――――――