蝶々
歌うたいがどうして自殺なんてする必要があるんですかねえ…。だって辛いならその辛さをステージで表現すればいいんでしょ? 係長もよく言ってるじゃないですか。おれの健康の秘訣は歌だって。あの人、自分で作曲もするらしいですよ。それを人前で歌うだけで大分救われるんだって。 アーティストのくせに自分を解放することが出来ないなんてアレっすよ。意味がないっつうか…。何のためにうたってたんだって話じゃないすか…。 あのコは地味なコでねえ。テレビの仕事なんかが来たこともあったらしいけど、うまくつながらなかったみたいだ。 テレビ局じゃあがってしまって、それに周りの人間の言ってることがとにかく早すぎて、聞き取ることも出来なかったなんて言ってたね。そういうコだよ。 結局ウチみたいな小さな酒場を渡って生活してた。身の丈にあったステージへ落ち着いちゃったんだなあ。そうなるともう、ね。 歌は上手なんだが、人を圧倒するような魅力に欠けてたな。一目で分かるよ、成功するようなコじゃなかった。 けどまさか、自殺するなんてねえ…。なんつーかこう、どっか不思議な世界に生きているコではあったけどねえ…。 結局最後まで、何を考えているかよく分からなかったなあ。 あれ? 警部、お疲れ様です。今夜から非番でしょう、まだお帰りじゃないんですか。 なんですか、そのCD。…え? ああ、そりゃ、パソでも聴けますけど…。あんまりちょっと…。 そりゃ、音質が違いますよう。 あ、そうだ。会議室に備え付けのプレーヤーありますよね。あれ使ったらどうです? 今、どこも空いてますから。 使い方分かります? ――てゆうか、何のCDなんですかあ、それ。…警部?
N0DISK
(カチッ。ガタ。ウィーン) (キイ…) (パタ。ヴゥーン。ガタン) (ブ――…ン) TRACK 01 00:00:01- (コツ コツ コツ…ギッ…) TRACK 01 00:00:03- |
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