蝶々






「彼女の死に、何か不審なところでも?」
「いえ、特別に」
「…警察の方ってのは、自殺した人の葬儀に顔を出すもんなんですか?」
「いえ、今日は非番で…」
「…彼女のファンでいらした?」
「いえ……」
「………」
「…CDは聴きましたが」
「…そうですか。
 僕も、ファンというのはなんか違う感じなんですけどね。会社帰りに時々、店で彼女の歌を聴いてたんですよ。ただそれだけで、話したこともなかったんですけどね」
「はあ」
「もっとも、今日はただそれだけって人間が随分多いみたいで。心配したよりも人が集まって安心しましたよ。
 それにしてもむちゃくちゃな集まりだなあ。そこらのおばさんもいれば、学生もいる。おまけにアル中らしいおっさんまでいるし。
 ふふ。牧師さん、一体、誰が死んだのかって顔してましたねえ。
 …それに蝶々も」
「え?」
「ほら、あそこ。一匹、さっきから外をひらひら飛んでるんですよ。…彼女の墓の周り」
「……」
「こんな季節に、大丈夫なのかな。
ぼんやりしたやつですねえ」







(EOF)








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