排気
(室内に男と女。正方形のテーブルに隣り合って座っている。 男は雑誌を読み、女は何もしていない。 女はおとなしく、かわいらしい容姿) 「…あのう…」 「(即座に) 黙って」 「でも…」 「黙っててって言ってるんだよ」 「……」 (ページをめくる音。ややあって) 「(挙手して) …すいませんけど」 「静粛に」 「一つだけ、質問いいですか」 「…なに?」 「わたし、いつになったら喋っていいんでしょうか?」 「ずっとダメ」 「え?」 「ずっと黙ってて。お願いだから」 「……」 (女、ぶらぶらと体などを動かすが、やがて辛抱できなくなって) 「…もうひとつ」 「しーっ」 「もうひとつだけ、質問いいですか」 「……」 「お願いします」 「なに」 「どうして喋っちゃいけないんですか?」 「……」 「わたし、そんなに変なこと言いますか?」 「…いや?」 「声がおかしい?」 「別に」 「息がくさい?」 「大丈夫じゃない?」 「じゃあその…、なんでですか」 「黙ってた方がいいから」 「説明になってません」 「黙ってた方がいいよ」 「なぜ? ――その問いに答えはないの? (以下、しゃべるごとにキータッチの音が響く) わたしの心は押しつぶされる 座布団の下のみかんみたいに なにを根拠に命令するの? そのルールは誰が決めたの? ずるいよ… ちゃんと答えてよ… 」 「……」 「……」 「――あの」 「(即座に)黙って!」 (キータッチの音と共に) 「喋りたい わたしの心の声 聞いて あなたの心の声 聞かせて だってわたしとあなた 分かり合おう 広い世界で出会ったのは 絶対にキセキだから 」 「……」 (男、厭な顔をするが) (女、もう止まらない) (キータッチの音と共に) 「言わせてほしい 聞いて欲しい だってこんなに溢れてくるの 感じたこと 考えたこと 素直に書けば きっと 誰かのミライにつながるはずよ!」 (男、雑誌を読むのをやめる。) (なんともいえない、間。) 「…君はさあ…」 「はい」 「素直でかしこい、とってもいい子だよ。真面目だし、勉強も出来る。動物もいじめない、手に職もある、税金も納める、部屋もきれい、正義感もある。そのうえ優しい。 それはもう、よく知ってる」 「はい」 「黙ってたほうが素敵なのに…」 (キータッチの音) (二人、シルエットとなって) |
<< 戻る | トップへ >> |