包帯
劉亮景(リウリァンジン)を最初に見たときの強烈な印象は忘れられない。 この古びた城壁の残る街ですら、漢民族の人間は珍しくないが、大抵、ついこないだ生まれてきましたという顔をしている。 彼は千年も昔の顔つきをしているのだ。古いモノクロームの何万枚という写真の中から、ふらりと立ち上がって現代の衣服をぎこちなく身につけている人間――劉亮景はそういうタイプで、それ故に、私達女生徒は彼を愛した。 紙の切れ端に彼の似顔絵を描いたり、彼のコメントが書き付けられたノートをしまいこんでいたり、本屋を出た彼をこっそり尾行したりしたのも、みんなそのせいだ。 世の中には新しいファンタジーが好きな人間と、古いそれが好きな人間がいるが、私達は圧倒的に後者だった。実は彼は教会にある『東方三博士来訪』の図中の人物であって、朝になるとそこから抜け出し、夜には帰って寝入るのだ、などと言う娘もいた。 馬鹿とか賢いの問題ではない。素敵な物語か、そうでないかだ。 劉亮景の整った風貌と品のいい所作、今風な甘さなど一点もない鋭い目つきが、私達に様々な物語を開かせたのだ。 もっとも、彼は女生徒達の心の動きには無頓着で、授業もしっかりはしていたが、熱心ではなかった。 きっと自分自身の勉強と将来のことが気にかかっていたのだろう。彼は近接する大学の研究室に在籍していて、街ではよくその関係者と一緒にいた。 『初め、この国の人はみんな白い肌と金色の髪をして、天使みたいだと思った。しかし、天使でもなんでもないね』 ある時喫茶店で、彼が同じ国の女性と一緒にいるのを見かけたことがあった。私は女を一目見てすぐ、いやな気持ちになった。 それはいかにも世の中に着いていかねばと怯えがんばっている現代生まれの女で、化粧も格好も全て、人に遠慮をして体裁を取り繕っているだけ。安っぽい服が肩からずり落ちそうになっていた。 なにより、私がぶるっと震えたのは、彼女の手首だ。包帯が巻いてある。 薬くさい、青白い、いじけたその女を、劉亮景は愛しているらしかった。彼の真剣な横顔や、諭すような懇切な言葉を聞いていればすぐ分かった。 『美しいのは見た目だけだ。僕の生徒達も格好はいいが頭の中はがらんどうで、両親や目上の人間を敬うこともなく、本当にわがままだよ』 劉亮景とその女は彼らの言葉で話していた。それが周囲に無言の圧迫を与えていた。 私も不快だった。言葉は分からなかったが、なんとなく彼らが私達の世界を非難しているのが分かったからだ。 彼は女達の憎悪がどういうものか分かっていなかった。そしてついにある日、劉亮景は怒った様子で教室に現れると、いきなり言った。 「僕のプライベートについて、ネット上で勝手な流言が飛び交っている様子だ」 そして平たくした片手で教卓をどん! と殴ると、 「僕が下半身を具えていることに文句がある者は起立しろ!」 ――私達はみんな、黙っていた。沈んだような雰囲気の教室内で、私達の目は闇のコウモリの集団のように光っていた。 劉は分かっていない。きっと亡き妻を慕うあまりニンフの求愛を無下にして引き裂かれたオルフェウスのことを知らないのだ。 あの女は最悪。あの女だけは駄目。私達は無言でそう訴えていたが、劉は黒板の前で敵意をむき出しにするだけだった。 蜜月は終わった。 劉亮景は包帯の女と街を去り、その後長く、私達は彼を憎んだ。 |
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