漂白
目を覚まして、私は、自分の懸命の試みが、さして意味をなさなかったことを知った。 座り込んだ私の視線の先に眠る体育会系の男は、素っ裸で、満足しきって口を開き、よだれをたらして眠っている。 それはもう、10歳やそこらのこどもが遊びつかれて眠るように眠っているので、所詮この男にとっては女も、ドロ警ごっこと同じ、はしゃぎまわり遊びまわる遊戯のひとつなのだ。 夫にとってもそうだった。 この世に別の男なんてどこにもいない。 新鮮だったはずの男の部屋の何もかもが、ふいに吐き気のするほど既視の風景に変わりはじめる。 眠る男の顔の下から、似もしない夫の面影がじわじわと滲み出してくる。 ああ。と私は眉をしかめた。 止まらない。 ハイターで漂白に失敗したら、どんな有様になるかはご存知の通り。 あー、グチャグチャのグチョグチョになるな。洗うたびに白のシミが拡がって、私、グチャグチャな女になるなあ。 しょうがないか。 やっぱり涙なしでは、済まないもんか。 まぶたの奥にそれを閉じ込めて明け方のシーツに突っ伏すと、石みたいに冷たかった。 灰色がかったレースカーテンの向こうが、少しずつ少しずつ、明るくなっていく。 (EOF) |