回転
大理石のばら色の円盤がぐるりとひと回りして春がきた。 あやふやな大気と花曇の中で、色んなものが硬い表皮を突き破ってにょきにょきと、冬虫夏草みたいに伸びてくる気の狂った季節。 春はきらいだ。 世界中の酒樽が開いて、動物も植物も酔っ払って、お前もノれよと言ってくる。 『ノれよ、ノれよ、お前。春だぜ。 春にノらないなんて、いきものじゃないだろ』 クラブなら逃げ場があるのに、春には壁がない。 大理石のばら色の円盤がぐるりとひと回りして春。 あー…、うっとおしい。 煙草吸うのも面倒くさい。 いい加減、34回も同じテツを踏めば飽きてくる。大理石の、ばら色の円盤がぐるりとひと回りしたらソレは強制的に来るんであって――だのにまた気持ちを新たにして、色んなものといっしょうけんめい戦わないといかんのですか。 こいつら、俺がじいさんになって、もう半死半生って年にも、耳元で残酷に騒ぎ立てるに違いないぞ。 春に憂鬱でもゆるして欲しいよ。 あなたは飽きない? 俺はとっくに飽きたよ。 四六時中飽きてるわけじゃないけど、退屈している時の方が、確実に長くなってきた。 円盤の春のエリアの上に立って、俺はのろのろと待っている… あたりには霞がかかって、いくら目をこすってもはっきりしない。頭も今朝起きた時から、まるでマシになっていない。夢とつながってるみたいだ。 典型的な症状だね。 また恋してしまった。 34歳になってまで恋をする自分に愕然とする。 飽きてるのに、恋に落ちることに愕然とする。 ひょっとしたら、俺は60を過ぎても恋をするかもしれないよ。ばら色の円盤が回転しただけなんだと唱えてみても、あー…、うっとおしい。 駅の階段を降りてくる足音で相手と分かる。 風が吹いて笑う花びらがめまいを描く。 声を掛けられるまでの一秒を鼻先で味わう。 『ノれよ、お前。ノれよ、春だぜ――。 春にノらないなんて、いきものじゃないだろ』 お前に俺の純情が分かってたまるか。 |
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