蛍雪




あのさ。
うん。
絶頂感のこと、『小さな死』っていうらしいのね。フランス語で。
なにそれ、テラヤマ? シブサワ?
多分どっちか。そうじゃなきゃ、らもさん…?
それで?
それ聞いて以来、あたし思うのは、じゃあ今のこれ、お葬式なんだなあって。
ああ。
裸で葬式、よくない? あたし自分の葬式は健康サウナとかでやってもらいたいな。みんなタオル一枚でだらだらすごすの。しかも男風呂は発展可とかって。
坊さんも裸なの? 裸袈裟?
あー、坊さんやだなー絶倫そうで。つか、お経要らない。スピーカーから文部省唱歌でいいや。
どーでもいいけどさ、今、何時?
九時過ぎ。あー、空気じめっとしてる…
俺、仕事十一時から。…起きよ。
んー。
どかして、足。
んーんーんー。あーあー…
よいしょ。
たいくつだなー…
…ちょっと。
ん?
やめようよ。みんなで一生懸命、その言葉だけは言わないようにがんばってるんだからさ。
だってたいくつじゃん。
なら飯のしたくでもしてて。俺、シャワー浴びてくるから。
……。




…うまいね、超柔パン。
六枚で一三〇円ですけど。
俺、好き。これで充分。…テレビ消さない?
やなの?
朝の痛々しくて。
じゃ、消す。
あのさ、文部省唱歌で思い出したんだけど。
うん。
ほーたーるのひーかーあり。まーどーのーゆーきー。って歌あるじゃん。
紅白歌合戦の最後で歌うやつ。
…そうなの? それは知らなかった。あんた、よくあんな退屈な番組見ていられるね。
NGワードキター。
――あっ…、くそっ。いいや。で、その蛍の光、窓の雪だけど、歌詞の意味分かる?
んーん? つか、季節あべこべじゃね?
いやね、それはそれでいいんだって。すごい昔の中国に、貧乏で夜のロウソクだか、油だかが買えない人がいたんだって。
はいはい。
でも、その人、なんとか勉強がしたかったから、冬は雪の照り返しで読書して、夏は蛍をいっぱい集めてその光で勉強したっつうのよ。
……はあ?
リアル蛍光灯。
なにそれー! あはははは!
おかしいだろ。
おかしいよ! 籠いっぱいの蛍詰め? 何そのハイテンションな状況! あはははは!
そうなんだよ! あんなだらだらした曲で、内容は超ハードなんだよ! 蛍地獄っつーか。俺、聞いた時、おかしくてさ!
あはははは!! すごーい。すごいぞ、中国の昔の人!
ははは!
あはははは!







…じゃ、行ってくんね。上がんの十時…すぎかなあ。
ん。メールちょーだい。
わかった。
――あのさぁ。
ん?
ウチの居酒屋にいるヤマグチ君がね、…もしいるんなら、白い粉、お安くわけてくれるって。
……。
退屈だし、使ってみますか?
…止めときなよ。俺らに足りないの、物質じゃなくね? 籠に蛍ぎゅうぎゅう詰めにする、テンションだろ。
そっか。
じゃね。
じゃあ。





(EOF)




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