生命
青銅で出来た小さな鐘の音と一緒に、水を売る人の声が、窓の外を近づいてくるのが分かる。わたしは影と布と香の煙に閉ざされた部屋のなかで、寝そべってそれを聞いている。
水を売る人は美しい人。煉瓦のような色の、滑らかな肌をして蜘蛛のように指の細い人。彼とは一度だけ、目と目をあわせたことがある。 水を売る人よ。わたしはここです。 囁いてみるけれど、声はゆっくり通り過ぎていく。気楽に水をあがなえる人がうらやましい。ちりんちりんというあの鐘の音になって、水を売るのに着いていきたい。 わたしは渇いている。とてもとても渇いている。 自分で道へ出て、水を乞うことも出来ないくらいに、弱りきって、ぐったりと床に臥している。
水を売る人よ、わたしはここです。 ここに入ってきて、煙をかき分けてわたしのそばに跪き、唇に水を差してください。 あなたの持つ、太陽の溶けた透明な水で私の細胞を内側からひとつずつ。 ひとつずつすすいで、どうか。 わたしを救ってください。 水を欲する者がここにおります。ひとり死にかけています。嫉妬深い夫の手で暗い部屋に、鳥のように閉じ込められています。 (EOF)
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