臆病の晩




 言われつくしてきたことだろう
 今更怖いのかい
 お前五歳の子供じゃあるまいし
 独りで寝るのが怖いのかい
 それじゃまるで病気だね
 知っているかい
 臆病もまた病だと言うことを


 
 天井に何かいるかい
 誰かがやって来てお前を誘拐するのか
 はたまた寝ている間に放火をされたり
 気が付いたら世界が崩壊したりするのが
 それほどまでに憂われるかい
 それじゃまるで病気だね



 独りで何故生きていけないのだい
 流行の髪型にしてほっとしたり
 たった一着のコートに
 そんなに胸なで下ろしたりして
 それじゃまるで病気だね



 爛々と目を開けて夜の長きを過ごせるのかい
 いつまでも先頭を走る馬でいられるのかい
 それほど努力をしているのかい
 時給八百円の身分じゃないか
 いやさ下もいて安心かい



 何故そんなにも怯えるのだい
 誰もお前を 誰もお前を
 そうかそれとも
 誰もお前を顧みないこんな世界が怖いのかい
 世界中の目から見張られたいわけじゃない
 それでもやっぱり愛が欲しいかい



 
 見たこともないものに助けを求めて
 ある時には確かに見たと言って

 それじゃあまるで 病気だね





 

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