■不在■ だれかこの樹の下にうずくまっていた男のことを知らないか 静かな黒い目をしていつも寂しげだった ああ、その男なら西へ行ったよ もう終りだと言って荷物に火を掛け ■ だれかここで詩を書いていた男のことを知らないか ワインにパンを浸して食べながら書いていた ああ、その男なら西へ行ったよ ここには言葉一つ残していない ■ だれかここで世を見つめていた男のことを知らないか だれもが目をそむける中で優しく孤独そうだった ああ、その男なら西へ行ったよ 少ない恩人にさえ一言も告げずに ■ だれかここで花を愛でていた男のことを知らないか 広げる掌に無残な傷跡のあった ああ、その男なら西へ行ったよ 血の点々とその道のみを教うるだろう ここにはもう 戻ってこない |
02.02.07