外海の腕








故郷の小さな海のように
穏やかで生ぬるい波が心臓の奥からやって来る
その塩くさい原初の欲求に
僕は全く不慣れだ
一体どうしたらいいのか分からない





君放つ挑みかかるようなその腕が
性なき人として平穏な日々を貪っていた僕 少年の
息の根を止めた
今や恨めしいとすら思っている





人々の大きな潮に組する者である君
君がもう何年も慣れ親しんできたその感触は
僕には全く初めての経験であるのだ
そんなことを言ったところで君の道しるべに解りはしまいが
世の中には内海と外海がある
僕はひどく揺れ動いている
君達が用意する外海の幸福は圧倒的で疑いもなく
乱暴な善意と正統な欲望とにあふれている
だから そこでは私の内海な感傷など問題にならないし
理解もされない泡のようなものだろう






解っている
この混沌を この喪失を
君のような外海を辿ってきた人間に分かって貰うのは無理なのだ
僕はずっと彼岸との対話を夢見てきたが
とうとう果たされずに今まで到っているのだもの





そしてテトラポッドのようにいつしか積み重なった知識は
けれどもやはり波が来るたびに身震いする
今、崩れてしまおうか
今、崩れてしまおうか?
知ってか知らずの君の眼差しに そのばさらな手招きに
必死に冷たい体を抱きしめるようにして石のようにうずくまり
憐れな僕は今日も 震えている
















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01.07.31