山猫広場







白いドレスを着た君は
黒い湿った土の上を
白い裸足で踏みしめながら
木々のさなかを走ってきた
一目散に走ってきた





僕はねじくれた桜の幹に背中をやり
死んだ人のように
腹の上に両手を乗せていたのだけれど
風が鼻先をかすめ
そろそろと目を開いた




夜霧の中で君は土くれたスコップを振り回し
山猫広場のど真ん中を掘り返していた
「トリケラトプスの骨が鳴いてるの
月夜に吼える夢を見てるの」





君は是のない兄を助けるために
指で鍵穴を回した少女のようだ
しかし火の山はもう十三度噴火を繰り返し
その厚い時の流れは君の手には負えまい
僕は指を突っ込んでも鍵穴は回るまいと思っていた
神の慈悲がなければ扉は開くまい






その夜は二十七時間も続いた
二十六時間目に君は草臥れて
僕の隣へ腰掛けた
乱れた前髪のところどころ 泥がついている
乾いた息を潤すように辺りの冷気を吸い込むと
おもむろに天をうち仰いだ





満天の星 満天の星
開け放たれた銀河の蛇口
やがて君は耐え切れぬようにぐったりと目を閉じる





トリケラトプスの声が聞こえる君に
空からどれほどの音が降ってくるのか僕は知らない
疲れたね 疲れたね この土は冷たいね
でもそろそろ眠っていいよ
東がゆっくり攻めてきた
風が吹きつけるようにもうじき優しく
白い朝がやってくるから



















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