僕が見るもの





僕には歴史が見えない
未来も見えない
世間も見えない
ただ路上に転がる蝉が見える
赤く染まった西が見える
その中を 家に帰る



僕には勝利が見えない
敗北も見えない
時流も見えない
ただパックに入った赤い肉が見える
ちかちかと光る電話の灯り
母からの 留守電を再生する



僕には何も見えない
ただ朝顔が咲いてるのが見える
強いられた犠牲が見える
僕を取り巻く人々が見える
風が渡るのを感じる



時折彼らは宙に目をさまよわせて
ぼんやりと「見たような」話をする
そこには何かあるのだそうだ
僕には何も見えない
何も聞こえない
耳にせよ目にせよ心にせよ
触れることの出来ないものを
あると言うことは出来ない



(そしてあるものを
ないということも出来ない)



僕は見る
一緒に働く人々の
出会う人々の
好きな人々のありのまま全てを
見える限りの 全てのものを
そして 立ち会う
詩が生まれ落ちる瞬間







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