外は雪


 
玉葱を刻む音は
母のように上手ではない
寒い台所の隅で炊飯器が
ぶつぶつ文句を言っている
外は雪
しんしんと関わりなく
やっぱり外は雪


「永訣の朝」を思いだす
死にゆく妹に一杯の雪を
椀を持って彼は飛び出したが
その時 外は雪
どこを見てもあんまり真っ白なので
多分彼は涙を流した
どこをとっても無情に白いんで


誰かのために泣くなんてことが
いつか私にもできるのだろうか
そしてそのことを文字にして
いつか何かを創り出すことが


やっぱり外は雪
包丁がとまる
外は雪
ぶつぶつ文句を言っている


今は練習だが
目が痛い
切れ切れの玉葱
こいつをこれから喰う
どんな味だかわからないが
食べることは人の義務らしいので


けれども外は
てまねきする外は雪




戻る