コントラコスモス -1-
ContraCosmos |
――これが私の街である。 外壁は緩やかな楕円形をなし、中心には大聖堂。豊かな川が斜めに横切り、街を上下に分けている。私の今いる位置は下のほう。ちょうど大聖堂と外壁の真ん中辺りに広がる、住商混合の雑多な地区だが、夜開く街ではないため、辺りは静寂そのものだ。 二の次になったが、私の名前はミノスという。この辺りでしけた薬草屋をやっている。それがなんでこんな早朝、灯りも持たず一人で歩き回っているかというと、実に簡単な話で人目を避けているのである。 人目を避けて向かうは南西の墓地。何をしにいくかは、友情の誕生とは関係の無い話なのでまあとりあえずおいておこうじゃないか。 私のような生業の者に必要なのは、季節ごとの日の出日の入り時刻を記した精確な暦と、人気のない小道を選べる地の利と、足音を立てない用心深さである。あまり健康的な話ではないが、死に絶えた夜の街を散歩するのが好きな人間には苦でもない。 暖まる前の空気を誰よりも早く肺に入れながら、歩くこと18分。緩やかな坂道を登って西の城壁に着いた。城壁と言っても中世のものであるから、もうボロでおまけに低く、雑草とガキどもの生息地になっている。 この街が外敵(放浪する外部民族)に怯えていたのは遥か昔のことだ。大道においては夜間の規制がされているが、調べればこのような穴場はいくらでもある。乗り越えて、きつくなる坂へ向かった。 私は概ね健康体だが、少しバランスを崩すと不整脈になる癖がある。さすがに早朝散歩も坂となると体が驚くらしく、肋骨の中で何度か脈が飛んだ。いつものことなので気にせず、青く変色し始めた空を仰いだ。 少し遅れているようだ。 急ごう。 |