思えばたった三日間のイレギュラーであった。
過ぎてしまえばマヒトはまたいつもの通り、午後三時ちょうどに店へ茶を飲みにやってくる。
リップはぐだぐだしながら菫がしおれることを惜しむし、林檎は相変わらず平和に馬鹿丸出しで、どれくらい馬鹿かというと
「ヤレヤレ酷い目に遭ったよ」
と呟くマヒトに向かって、いたって真面目に、
「ああいう女の人たちに関わるからこんな目に遭うんですよ。今度から、関わらないほうがいいですよ」
なんて言うくらい馬鹿である。
「いや、それは違うよ、林檎」
マヒトは言った。頬杖を突いて、夢の内容を話すようにぼんやりとした眼差しだった。
「彼女は、聖女だったんだよ。
いや、特に何も根拠はないんだけれど分かるんだ。少なくともヒルデベルトにとって彼女は……」
ハーブの香りが漂う店内に、リップがぽろぽろと爪弾く楽器の音が聞こえる。
私は一人、無言で材料を混ぜ合わせながら考えていた。あれは一体なんだったのだろう。
人々が集う神の家の地下で、誰一人礼拝に訪れない小さな祭壇。
そこからまるで泉のように湧き出す杏の香。
世に天国の鐘も地獄の炎もないことを知っている。
けれどあれは、一体何だったのだろう。
-おわり-
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