「兄弟マヒト、ここのところ随分根をつめておいでのようですね。もし私などでよろしければ、ご相談にのりますよ」
「……ありがとうございます。しかし私はどうも口が下手で……。しかも今はあまりいい状態でないので、何か失礼なことを言ってしまったりしないかどうか……」
「大丈夫ですよ、気を楽にしてお話しなさい。私は今まで兄弟たちの話を今までたくさん聞いてきました。悩める方々の心理にはそれなりに通じていると自負していますよ」
「……はい。では……、私は悩んでおります。俗界で、親しく付き合っていた友人のことを、深く傷つけてしまったのです。一体その罪をどう償ったらよいかと……」
「あなたはその友人に何をしたのですか?」
「彼の自死を止めました」
「…………」
「…………」
「とても正しい行為です。なぜそれで悩むのです? 父から与えられた身体を故意に傷つけることは、赦されざる大罪です。
あなたの行為のおかげで、その男性は死後の地獄行きを免れました。どこに問題があるのですか?」
「……彼は、過去に何か、とても大きなものを無くしたことがあるのです。はっきり聞いたわけではありませんが、多分、そうだと思われるのです。
そして彼はその喪失に苛まれながら、今まで辛い血と涙を流しながら生きて来たのです。私はそれすら、長い間気付かなかったのですが……。
辛さに耐えかねて、彼が死のうとした時、私は何一つ考えることなく反射的にそれを止めました。
でも、私は彼に、何を返してやれるわけではないのです。ただ辛い人生を延長させただけなのです。しかも、彼本人の意に反して」
「それは違います、兄弟マヒト。主のお言葉を思い出してください。
確かに生きていく上ではさまざまな苦労があります。しかし来る天上の王国では全ては必ず慰められ、救われるのです。
その友人が無くしたというものも全てそこで復活するでしょう。全てが輝きを増して彼にもたらされるでしょう。
だから、辛さや苦しさから短絡的に死を選ぶのは愚かなことです。そんな小さな過ち一つで、主の永遠の生命の輪から外れてしまうことになるのですから。一旦外れたらそこにはもう復活も奇跡もなく、ただ深く冷たい無があるばかりなのですよ。
あなたはその友人に、もっと未来のことを知るようにと話さねばなりません。そして落ち着いた気持ちで、楽園が開かれ全ての不安が取り除かれる日のことを考えられるようにしてあげねばなりません。
彼に言ってお上げなさい。主は全てを見ておいでになり、苦しみによって人を選ばれる。だから辛い人生こそ幸いなのだと。涙をもって誇りを抱いて進みなさいと」
「……しかし、司祭様。私は嘘はつけません」
「嘘とは何のことです?」
「司祭様とて、昨日お客人との晩餐をとても楽しんでおいでだったではないですか」
人生ナンテ楽シイ方ガイイニ決マッテルジャーン。
苦々しく潰れた司祭のカエルのような表情を見たとき、マヒトはようやく自分がまた失言したことに気がついた。
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