コントラコスモス -26-
ContraCosmos



「お呼び出しとは恐れ入るね。一体何の用だ?」
「うん。ところでひょっとして怒っているかね?」
「手紙一つで夜中に呼びつけられて気分を害さない奴はいないだろ」
「ミノスの気持ちが分かるかな」
「俺はあんたに借金はないよ」
「そうだ。対等だ。何故やって来た?」
「……」
「無視しても良かったはずだ。対等なのだから」
「……」
「では本題に入ろうか、バルトロメオ・リフェンスタイン。若くして次長を務めた君の戦力と勘を、このまま遊ばせておくのはいかにも惜しい。私の下で働く気はないかね」
「――嫌だよ」
「何故?」
「何故もないさ。嫌だからだ」
「……本質から逃げ回っても、もはや何の意味もないぞ。君はもう半ば追いつかれている。元に戻りかけている。察しているはずだ。
 君はそもそもそういう男だった。常に人々の輪の中にあり、仲間からは信頼され、部下は大切にし、子供や老人を労わる。本来の意味で強くて優れた男だった」
「ミノスが聞いたら失笑するぜ」
「リップ君、あの子をナメてはいかん」
「……」
「自らを悉く裏切って何年間も他人の振りをし続ければ、人格が破綻するのは当然だ。また続けたいのかね? 何の意味もない三文芝居をこの上?
 君自身分かっているはずだ。君は放っておかれない。運もいい。君は思い思われている。既に満たされかけている。大体が君は、目の前の人間を愛さないではいられない性質だ。多くの場合自分よりも」
「それは欠陥だ」
「そうだ。私もそうだ」





「君は私のことが嫌いかね」
「……そうでもないよ。まだ話せるほうなおっさんだと思ってるさ。……だが俺は、あんたの行使する『力』が嫌いだ。世の中にあれほど人を狂わすものはない」
「それは、ショーン・ゲイナー君のことか?」





「――訂正する。俺はあんたも嫌いだ」
「これはご丁寧に」
「失礼する」
「おやすみ。だが門戸はいつでも開いている。忘れないでくれたまえ」
「クソ食らえだ」
「思考することを拒否するのは勝手だが世界に完全な無重力状態など存在しない」
「…………」
「ちょうどコルベチーノの言う完全自由競争市場などどこにも存在しないのと同じように。君は甘えている。人間扱いしないことで逃れてきた女達の涙に。そのことを忘れるな」





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