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その後、私の意識は途切れ途切れだった。感覚に触れるものがあれば、その時だけは分かった。 声は間断なく続いていたが、内容は分からなかった。時々林檎のとは違う、高い声が混じった。 あれは花屋か……? 大きな腕が床から私を抱き上げた。身体全体を持ち上げられるのは実に久しぶりだった。 ひとしきり動いた後、一歩ごとに立ち止まるような縦ゆれへ変わった。階段を下りていくのだなと思った。 陽が届かない、寒いところへ入った。ふいに口先に水を押し付けられた。 歯と歯の間に指が入って隙間をこじ開ける。どっと冷たい水が零れて来て、私は溺れるかと思った。 吐く。水泡が破けて口中に痛みが広がる。むせた。しかしその手は次にはもっと奥へと入り込んできて、私が飲み込んだものを、吐き出させようとした。 私は吐いたと思う。途中で意識がまだらになった。ただもう嗅覚を三種くらいの酸味がずっと争っていた。 気がつくと私は寝ていた。布団の中に寝ていた。 口の中は相変わらずヒリヒリと爛れ、水泡も再びうごめいていた。 「――どうして林檎!! 何故こんなことを!!」 遠くで声がしていた。男の大きな声だ。 「だってあたしの方が先だったんだもの!!」 「はあ?!」 「だってあたしが先だった! あたしが先だった! あたしが先だったのに、あれが盗った! あたしのものを!!」 「……林檎ちゃん、いい加減にしなさい!」 「なんであたしを責めるの?! あたしは悪くなんかない! ない! 違う! あいつがみんな悪いの!! あたしがいない間に! あいつは最低の人殺しで魔女よ! みんなをたぶらかして聖都を腐らせるって司教も!! あなたも汚された!! 私も汚された!! みんなあいつがやったことなの!! あいつがいるから私たちは不幸なの! だから私は神様に従ってみんなの代わりにあいつをぉぉ!!」 「……――マヒト!」 ぱしん!! と、鈍い音が空気を震わせ、その瞬間、全ての声がなりを潜めた。 私の脳は五秒遅れくらいでその会話の内容を理解していた。 司教。 そうか。イェーガー司教か。 |