コントラコスモス -45-
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「神父さま、さみしいの?」 「何故?」 「元気がないみたい。 やっとコルタ・ヌォーヴォに帰れるのに。 病院を離れるからさみしいの?」 「君は聡明だね」 「ずっとコルタに帰りたかったんでしょう?」 「そうだね。帰れるのは嬉しいよ」 「でも神父さま、さみしそうよ。 なんでかな、父さんや母さんも時々そういう顔をするの」 「……ほんとう?」 「そうよ。みんなでご飯を食べ終わってお茶を飲んだりするでしょう。すごく楽しいのに、一緒に申し訳なさそうな顔をするの。でもあたしにはその理由が分からないから、困るの。 神父さまも、今朝はそんな感じ。誰かとケンカしちゃって、謝れない時みたいな、そんな感じよ」 「はは、ケンカか」 「コルタに、会いたくない人がいるの?」 「ああ……、うーん……。いや、それは大丈夫かな。いわゆる南庁はもう、ユーバレヒトへ移ったしね」 「じゃあ、どうしてなの? あたし、どうしたらいいか分からないよ」 「……そうか。ごめん。自分では普通のつもりだったんだ。 ……でもね、君が言ったことは正しいんだよ。クレバナも好きだけど、僕はずっとコルタに帰りたかった。君のお父さんをお家から遠く、あちこち付き合わせるのも心苦しかったしね」 「悪い王様が死んだから、やっと帰れるようになったんでしょう?」 「……そうだね。まあそうだ。これで僕は懐かしい街へ帰って本当の名前で生活できるし、旧い友達にも会える。大好きな君のお母さんにも会える。君の妹や弟にも会える。それはとっても嬉しいよ。 ……でもね、君は聞いたことがあるかな。本当はもう一人、僕らには仲間がいて、みんなが揃ってもその人がいないから、……僕らはさみしい。 その人が一人ぼっちでいるのに、僕らは時々幸せを感じる。だから申し訳ない。 そういう感じなんだ。君のせいじゃないんだよ」 「その人は、どうしたの?」 「……分からないんだよ。北の国の王様が死んで、争いが起きたのは知ってるよね」 「お城が燃えちゃったこと?」 「そう。力のある王様の生きていた頃には部下だった人が、お城を襲って燃やしてしまったんだけれど、その混乱でたくさんの人がどこに行ったか分からなくなったんだ。 ……色んな噂や嘘が流れてきててね。その人が無事なのかどうか、まだはっきりしないんだよ」 「じゃあその人は、悪い王様と一緒にお城にいたの?」 「そうだよ。……その人は、最初はそれが厭で、コルタに逃げてきたんだ。そこで僕や君のお父さん、お母さんと知り合った。 でも、王様はその人を必要として、追いかけてきたんだ。その人はそれで捕まってしまって、ちょうど側にいた僕も一緒に捕まった」 「父さんは何をしてたの……?!」 「怒っちゃ駄目だよ。お母さんと、お母さんのお腹にいた君を守ってたんだから。それに後からちゃんと助けに来てくれたよ……。でも王様の力は強くて、僕ら全員が助かることは無理だった。 ……それはまるで、パライソの狭き門のようでね、その人は役立たずで何も分かっていない僕を突き飛ばして門を閉めた。そして彼女は、扉の向こう側に残ったんだ。 助けたかった。でも力が無かった。それは力持ちだとかいうことじゃなくてね、人を助けようと思ったら、まず自分は無事じゃなくちゃ駄目なんだ。 君のお父さんはそういうこと、よく分かってたよ。でも僕は全然分かってなかった。ただ助けたい助けたいと焦ってただけだった。 ……結局、何も動かせなかった。彼女を守ることはおろか、自分を守ることすら満足に出来なかった。こんなに大きな体をしているのにね……」 「……違ったら、ごめんね。もしかして、神父さまの右足がうまく動かないのは、その時の傷のせい?」 「そうだよ。君は本当に頭がいいね」 「神父さま、今も悲しいの?」 「……君といる時はそうでもないよ、昔のことだからね。君のせいじゃないんだよ。王様のせいでもないんだよ……。人生に起きたことは、人のせいにすることは出来ないんだよ。全ては自分のせいなんだ。 ただ……」 「あ。父さんが来る……」 「……出発の準備が出来たんだね。みんなが待っているから、……行こうか」 「うん」 |
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