JR 「ちょっと昔の話をしておこう。 むかーしむかし、田舎から出てきた一人の男が、大学の同期におだてられて芝居を書いた。 それを観に来た同い年の男。彼も学生だったが、回りくどい言い方で褒めたりしつつも要は、『もうちょっといいもん作れ』とそう言った。 芝居を作った男はくやしくて、はっきり言ってムカついたのでそいつを自分の補佐にした。金持ちの家の息子で、流麗なる教養を身につけるために勉強していた彼を、貧乏無一文の薄汚芝居生活に引きずり込んで逆襲したわけだ。 しかも彼はその嫌がらせに応えた。 充分すぎるほど充分応えた。 劇団を組織し、それを管理し、時間も頭脳も労力も誠意も、持てるものはほとんど全て、惜しげもなく注いでくれた。 何よりも、俺の芝居を愛してくれた。 …かみさまみたいだった」 (照明変化。JRの対角線上にデミトリ浮上。背面同士。 JRの対面を滑る。二人は二つの磁石のように連動し、ゆっくりと回転する) JR 「一心同体という言葉がある。けれど短絡的にセックスのたとえだとしたって、いつかは離れる。 …そういや前、映画かなにかでやりあったまんま心中する、なんてのがあったね。 それもいいだろう。 でも俺は死にたくなかった」 (回転、次第に加速し、呼吸がぶれ始める) デミトリ「JR。それはお前」 JR「心中するのが目的なら妥当な相手はたくさんいる。 あいつは相応すぎるほど相応な存在だった」 デミトリ「それはお前の望みだろ」 JR「俺は死ぬのは嫌だった。俺の背後でいつかビルから飛び降り、ぐしゃっと潰れた男のように」 デミトリ「私の望みを尋ねたことがあるか。お前はいつだって」 JR「俺も彼も、もう目的がすり替わってしまっていた。すでに『いいもん作』るための関係ではなくなっていた」 デミトリ「私は補佐だ。集団の中で、『かみさま』はお前。いつだってそうだ。 決定はいつもお前がやる。私は従うだけだ。私達はみんなお前の気分に振り回されて」 JR「俺の手から主演女優を奪ったお前が何を言う」 (デミトリ前面に来て停止。硬い表情) デミトリ 「…違う。――――違う。 それが原因じゃない。 お前は飽きたんだ。劇団という集団に飽きたんだ。言うなれば、常に同じ面々でいる家族に飽きたんだ。 演出って輩はいつもこうだ。役者やスタッフを自分好みに思う存分変形させるくせ、一定のレベルに達するやもう新しい人材に目移りを始める!」 デミトリ「君は捨てたんだ。古い家族を。古い友人達を。苦労も厭わずお前を補佐してきた者達を。 それも、たった一人の新しい若い―――――」 JR「(遮って)なるほどそうかもしれない。だが同じことなんだ」 JR 「俺は死にたくなかったのだ」 |
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