scene 2





「だいじょうぶ…?」


(少女が囁く)


「体中が、血まみれ。怪我を?」


(少女の目は見る。男の衣服のいたるところで、内部から血が滲み出ているのを。或いは乾き、布が硬く強張った場所にも、またその下から新しい血が染み出し、刻一刻と全体を浸していく)

(ふと見れば、血は男の顔面にもふた筋の線を引いて流れる。きれいに撫で付けられた黒い髪の生え際の間から、ねっとりとした赤い水は、正体を見破られたかのように垂れていく)

(少女がハンカチを取り出そうとするより早く)
(男は一筋を額でひねり潰し、赤い拳を見たあと、虚無的に笑う)


「同情して下さるというわけか?」

「………」

「供物の分際で」


(男、少女に接近する。少女は生成のコートを着ている。生地に血が滴り、丸く膨れ、やがて奥へ染み込んで行く)


「私の目的が何か知っているのか」
「…いいえ」
「――――ジダン・レスコーの魂だ」
「………」
「落ちにくければ落ちにくいほど、高い値がつくものなのだよ。人には」


(少女、自分の腕を掴む男の顔を、目を開いて見つめている)


「お前はこれからそのために捧げ物にされるのだよ」


(再び、血が彼の額を滑り落ちる。一度拭った跡を辿るように、乾きかけの縁でたまり、ふくらみ、破けて鼻筋へ流れる。
 その様を、アンヌは、じっと見つめる)


「…あなたは…」





「――――アンヌ!!」


(乱入者。
劇場のロビーから走り出てくるのは、ジダン・レスコーである。LDと呼ばれる男は即座に少女の腰と足とを支え抱え上げると、飛ぶ)
(九段の石段を越していくその背中に)



「待て!! LD!!」







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