scene 7




 ジダンは、何が起きているのか理解できぬまま街中を走っていた。
 決して少なくない人ごみの中を、川魚のようにすさまじい速さで滑っていくLDと、アンヌの姿に身を吸われるかのように。
 或いは自分は襟首をつかまれ、あらぬ場所へと引きずり出される猫のようだと感じた。
 鮮血が、螺旋を描き空を舞って、時にジダンの眼鏡を汚した。
なんなんだ。
これは一体なんなんだと思いながら、五分ほど疾駆した頃、いきなりLDは横へ折れ、建物の中へと消えた。
 ジダンが遅れてたどり着くと、企業が入っているらしい古式の建物で、中庭が駐車場になっている。歩道へ通じるそのアーチには黒い鉄で出来た頑丈な柵がはまっていて、その通用扉がLDらの通過に揺らめいていた。
 どうして鍵が開いているのか分からなかった。中はぴかぴかの高級車ばかりだ。そういう場所の入り口は、大抵厳重に施錠されているものなのに…?
 息つきながら湧いた疑問は、高い足音が蹴り飛ばした。階段を上っていく音だ。揺れる鉄格子の扉を押し開き、ジダンは耳をたよりに回廊を走った。







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