L'inutile
扉の閉じた家(後)






「やあ、クリスティナ、おはよー。……って、なにその荷物」
「おはよ。記事見たわ。どうもありがとう」
「いーえー。月並みなコメントで恐縮です。入って入って。その後どう?」
「うん。なんとかなった。お芝居は予定通り公演できそう」
「へえーっ! そりゃよかった。いい休暇になるね!」
「まあね。リズももう退院するらしいし。そしたら交替するの。半月は働かないわよ、もー」
「お疲れさん。……ていうか大丈夫? なんか声が変だよ。風邪でも引いた?」
「うん、ちょっとした風邪よ。大丈夫。もう治りかけ」
「座って。コーヒー出すよ」
「ありがと。……あのさー、ジダン。つかぬことを聞くけど、今まで何回くらい恋をした?」
「――はああ?」
「聞こえたでしょ?」
「……恋愛した回数? 今までの?」
 フィルターを手にしたジダンは心から困惑した様子で眉根を寄せると、正直に言った。
「そんなもの数えてないですよ」
「……」
「そんなの数えてる奴がいるの?」
「……ふっ……」
「よし10人目ゲット! とか言うわけ?」
「ふふふふ。もういい」
「途中で逃げられた場合カウントは22.7とかになるわけですか? そして年平均を出したりするのですか?」
「もういいってば……」
「君が変なこと言うからだろうよ。恋愛ってそういうものと全然違うだろ?」
「そうよね。ごめん、もう言わないわ――あらヨシプ、おはよう! 相変わらずひどい寝癖ね」
「…………」
「今年も一年お世話になったわね。これあげるわ。クリスマスプレゼント」
「…………」
「な、なんだいそりゃあ」
 気になっていた大きな袋から、妙なばかりでなく、なんだかいかがわしい物体が出てきたのを見てジダンがたじろぐ。
「まくら?」
「ムカつくことがあったらこの萌えマクラでジダン頭を殴りなさい」
「どういう趣味だ?!」
「そろそろヨシプにも破壊的な武器のひとつくらい持たせてあげようかと思って」
「…………」
 抱き枕を手にしてつっ立つヨシプが、じっとジダンを見た。
「……なんだその目は!」





(了)


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