L'inutile







 その晩、ジダン・レスコーはなかなか帰宅しない同居人のヨシプ・ラシッチを、居間で寝ずに待っていた。
 彼が戻ると、その顔をみるなり、突然聞いた。

寝たか。彼女と。

 それからテーブルの上の馴染み深く四角いビニルパックを指でつまみあげて言う。

――使ったか?


「……」


 ヨシプは肩から下がったマフラーを手に、珍しく少し狼狽した様子で立っていたが、それがジダンの常ならぬ態度に驚いたからなのか、感情にはやって節度のない振る舞いをしでかしたために、はっきり答えかねているのか、判別はつかなかった。









 ちょうどその頃、彼らのアパルトマンから七キロも離れた住宅街のある家で、女性が少女に同じことを尋ねていた。
 少女はやはり答えずに、そのまま二階へ上がろうとする。
 だが女性はその腕を捕まえて、力づくで自分のほうを向かせると、二十歳も数えぬその頬に目がけて皺の浮いた手を振り上げた。


 ぱしん! という大きな音が、古い楽譜や写真の飾られた廊下の丸いアーチに響きわたり、
そして、のみ込まれて行った。












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