L'inutile
33.
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翌朝は、晴れた。 ヨシプは小さな荷物を持ってジダンの家を出た。 今日から年明けまで郊外の叔父の家で、叔父叔母、従妹たちと過ごすのだ。 ジダンも早晩、自分の田舎行きの電車にのる予定だったが、二日酔いでまだとんでもないツラをしていた。 全体間に合うのだろうか。 「ラシッチさんによろしくなー。うえっぷ。よいお年を」 「ジダンも。気をつけて…」 気をつけて。か。 ジダンは腕組みをして、青白い顔で、思わず笑った。 出会った当初には、想像も期待も出来なかったような立派なお愛想だ。 「…なんかもう、だいたい大丈夫だな。お前も」 「……」 「来年は、ここを出て、独立するか?」 ヨシプは片手を上げた。 考えときます。 「でもとりあえず、年明けは戻ってきていい?」 「そりゃそうだ。じゃあ、行ってこい」 「行ってきます」 一つのねぐらから、もう一つのねぐらへ。 どこまで行っても、漂流渡り鳥。 年末だから、地下鉄も郊外線もガラガラだった。時々乗ってくる流しの音楽屋も休業中らしく、いない。 車内は静かなものだった。みんな仕事が休みで、穏やかな気持ちらしい。 座席に座って足を組み、その上に置いた荷物に肘をついてぼんやりしていると、携帯がメールの着信を告げた。 画面を見ると、ヴィカからだ。携帯を返してもらえたらしい。 来年の3月頃に、学校のホールでコンサートがあって、あたしも出ます。 聴きに来てくれる? 検査の結果が出る頃だなあ。 考えながら、ヨシプは携帯の文字ボタンを押した。 いいよ。 返信はすぐあった。 『ラモーの甥』というお芝居やるって聞いた。 見に行ってもいい? いいよ。
来年も、仲間でいてくれる? 携帯を繰る。 いいよ。 ありがとう。 どうってことは、ないですよ。 時々、君のピアノが好きだってこと、言い忘れたしね。 来年に取っておこう。 携帯をしまって、窓から外を見ると、空には薄い膜のような雲がかかっており、その間から白い光がまるで緞帳のように波打ちながら冬枯れた原野の上に降っていた。 思えば世界は、一つ幕に覆われた巨大な劇場なのかもしれない。 クロアチアの故郷からパリの雑踏の間まで、 いまだこの大空の下を出ない。 縁に導かれてのそのそと集まる、必死で 貧乏くさく、ごくつぶしの仲間達と一緒に、 新しい年にはさて、どんな場面を演じよう。 |
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