2.サミュエル・クワンの話









 緑瑛の調査団から、ニンブス・シティに生存者がいるという極秘情報が端末に飛び込んできた時には…、目を疑ったものでした。人口五万級のエア・シティが壊滅したという事故は過去二回起きていますが、そのいずれのケースでも事故後240時間以上経過しての生存者の発見はありませんでした。
 喜ばしいことなのは分かっていましたが、最初は正直言って、本当なのか、という疑いの方が強いくらいでした。きっと毎日ニンブスから送られてくる悲惨な報告に影響されていたのでしょう。
 彼らが見つかったのは、シティの統治機関であるホーム(ニンブスではカテドラルと呼んでいましたが)の最深部に存在する、統治者用の一室です。
 調査団により発見された当時は衰弱していましたが、意識ははっきりしており、すぐさまグラナート・シティに搬送されることになりました。
 生存者は二人でした。
一人は二十四歳の男性で、名前はトードー・カナン。今一人はエテル・ファーレという十九歳の少女でした。
 搬送機の中で行われた第二レベル医療調査で、早々に奇妙な事実が発覚しました。急いで組織された調査チームの一員として搬送機から送られてきたデータに目を通した私は、思わず端末の前で「ああ?」と叫んだものです。
 トードー・カナンには取り立てて問題はありませんでした。しかし、エテル・ファーレには先天性の知能障害が発見され、そのレベルは「厚生生殖法」で定義するところの 3-Aか2-Cと見られました。これは「福祉および人道に基づく人口調整法」に抵触し、本来なら培養期に自動選別される対象となるはずです。
 その上、身体調査の結果がすこぶる妙でした。「第五肋骨が背面で変形し、数本の鳥の羽根の様な異物が出現しているように見える。」と述べられていたのです。
 …これはつまり、この人間には羽根が生えている、と言われたようなものです。写真は人権条項に関わるのでありませんでしたが、あれば尚更気味が悪かったことでしょう。
 私は同じチームに配属された同僚と顔を見合わせました。
何か変なことが起きている。
胸の中でそういう感じが唐草模様のようなとぐろを巻きました。












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