19.「天使」









「――――『天使』だってえ?」
「そんな意地悪な顔をするな」
「生まれつきだ」
「じゃあ仕方が無い」
「その5470は調整率どれくらいだ?」
「3hg。機械嫌いのお前のために言っとくが、今まで極めて優秀な結果を出してきた女性型だ。それが今じゃ手がつけられん。最悪、初期人格の再インストールだ」
「損害だな」
「損害だよ。嬉しそうな顔をするな」
「ハキム。この報告書では、トードーが搬送機の中で、彼女に5470を付けるなと警告していたとあるが、何故無視した?」
「トードー・カナンは文芸研究家だ。それが理由の全てだよ」
「……どうして彼女は『天使』にされる?」
「…思考記録を辿ってみると、彼女はまず最初に背中から羽根が生えているという造形に躓く。そんな外見をした人間はいないからだ。だから、最初にこれは人間ではないという一次判断が下される。
 そして次に『それでは何か?』という自問に飛ぶ。メイン・システムにアクセスして、膨大なデータを洗う。そこで彼女は少女にぴったりの外見を持った生物に辿り付く。それが――――――」
「『天使』?」
「最終的な彼女の判断はこうだ。これは『天使』である。そして」
「…そして?」
「………」
「………」
「…人間の、進化形である」








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