59.理由が分からない |
「久しぶりだな」 …はい。 「二週間ぶりか」 はい。 「髪の毛切ったか」 ええ。 「忙しいか」 …前ほどでは。 「そりゃ良かったな」 ええ。 「…トードーには会っていないそうだな」 ………。 「昨日面会に行ってきた。一度も来てないと言ってたぞ」 …別に…。珍しいことじゃないでしょ。 「………」 僕は、あなたとは違うんで…。あんまりしないんですよ、調査した相手に肩入れしたりは…。 「『肩入れ』か」 ………。 「……俺は彼の権利を保証してやっただけだがな、ま、いいさ」 ……あの。 「掌を返したような態度だな、お前のは」 ………。 「意識して会わないようにしてるんだろ」 ………。 「苦しそうだぞ」 …喚問で……。 「うん?」 トードーは…、嘘を言ったでしょ…。 「………」 エテルに口に運ばれて…、それが何か分からなかったと言ったでしょ…。 「…そうだな」 分からなかったはずがない…。二、三日のことじゃないんですよ…。結果が見えなかったはずがない……。 彼は自分を庇った…。あんな局面で自分を…。結局彼は…。 「前、トードーに同じことを聞いたことがある」 !! 「そうしたら面白い話を教えてくれたぞ。…あの時、確かにお前の言うとおり、トードーにはそれが何か、薄々と分かっていたそうだ」 ………。 「だからエテルに向かって首を振った。口に入れないでくれってな。そしたらエテルは言ったそうだ」 何かわかんなかったって泣いたらいいよ。 大人って甘いんだ。 泣いたらたいてい、おこんないの。 ………。 「平気か?」 …なんで…、そんなことになるんです…。そんなふうに狡賢く……。なんで…。 「お前たった一人で人間の業を背負うつもりか?」 え? 「生きている人間の数だけ存在する欲の重さを、たった一人で引き受けるつもりなんだろ。全体何様のつもりだ? その重さに潰れそうになって、結局みんな放り出して逃げる。ガキの独りよがりだ」 ………。 「孤立するな。ネットワークを張り巡らして、簡単には途切れない仲間を作れ。トードーの力になってやれ」 ………。 「馴れ合うな、退行するな。嘘をつくな、無理をするな。 甘えるな、見棄てるな、怠けてはいけない。 恨むな、弱音を吐くな、賞賛を求めるな」 ――――何で! 「………」 何で僕だけがそんなに厳しく生きなきゃならないんです! みんな、適当に自分を甘やかして生きてるのに、何で僕だけがそんなふうに…、ストイックで辛い人生を…。 「…さあな」 え? 「何でなのかは分からん、俺にも」 ………。 「何でこんな風に生きなきゃならんのかは分からん。 だからもしお前その理由が分かったら…、 そっと俺に教えてくれ」 |
<< back | [ 59 ] | next >> |