61.クレメンティ







◆お騒がせシンガーT.クレメンティ またも爆弾発言

「人喰いなんて珍しいことでもない――――」
自らを「文明の敵」と公言してはばからない特異なシンガー、トリスト・クレメンティがまた言ってくれた。期待を裏切らないコメントに報道陣は大喜びだが、そろそろこういった子供じみたパフォーマンスを止めてもいい頃ではないだろうか?

「何をそんなに驚くようなことがあるんだ? あんたらだって毎日飯を食ってるだろ。ガワティ区にいる病気の女の子が一日300kカロリーだって食えてないって同じ時にさ」
と、クレメンティは言う。ニンブスの生存者トードー・カナンの刑事裁判が開かれている裁判所の廊下で。
「あそこは豊かな土地なんだぜ。中央区の小麦の三分の一があそこで出来てるんだからな。ところが経済保護とかいってアホみたいに高い関税かけて、どれだけ農作物を輸出したって連中はいつまでたってもビンボーだ。食糧は軒並み外に出ちまって自分らの食い物すらない。
 奪い取って食ってるだろ? その毎日手入れしてるきれいな顔でさ。それは人喰いじゃないのか」
 馬鹿げた噛み付き方だが、彼のこうした発言こそ「珍しくいこと」ではない。昨年には「俺たちはドリー(南部で抗議の自殺をした19歳の少女)に同情してやる必要なんかない。いつもの通り、彼女の死体を埋めるために5億トンのゴミを送ってやればいいんだ」などと発言し、シティ中の良識ある人々を唖然とさせた。
 こうした向こう見ずで子供のように残慮な行動は、今では彼自身のトレードマークともなっている。敢えて言うならば、彼自身の音楽活動よりも注目されているくらいだ。それを彼自身も知っているかのように、社会的な事件が起こるたびに彼はその辺りをうろうろし、このような発言を繰り返しては世人の注目を浴びている。
 彼の言うことを聞く前に彼に一つ言っておきたい――――君は歌手ではないのか、トリスト? そろそろ慎みたまえ。君の仕事はコンサート会場で客を熱狂させることだ。
(NewsLine誌より)









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