65.最終弁論







 裁判所の廊下でカーター君とシャオに会った。
心の奥に怯えを抱かない自分に驚く。シャオもちょっと注意を向ける。
「どうかしたの?」
 何が変わったのかはよく分からない。
けれどもある日空の果てからカバのような輸送船でトードーがやって来て、自分のやることをして行った。
 僕はもう自分のプライドが傷付く事を恐れないでもいい。そんなことは、本当にどうでもいいことだ。
「彼はもう充分だろう」
妙な顔をするカーター君を無視して押す。
「彼は明日から見つけられなくなるよ」
 口を結んだまま、数秒間シャオは僕の顔に視線を据えていた。だがやがてぽつりと囁くように、
「いいでしょう」
と是認する。
 もうトードーには手を出さないってことだ。承知してくれた安堵感で唇が緩んだが、彼女の方は笑わなかった。何故か逃げるような素振りがあった。
「あんな奴と関わってどうするつもりなんだ? あいつもあのオヤジと同じくらいめでたい奴だねえ」
「黙りなさい。もう話は終わったのよ」
 苛々したようにカーターの肩を押しながら、彼女は控え室に入っていく。その後姿を追いつつ思った。
 エブレン・シャオユェが変わったら…、世界も随分変わるだろうな。
 自分に他人の人生を変える力があるとはとても思えないし、テロリストになる予定もない。
だがそんな世界に住めたらいい。
今でなくてもいつか、「めでたい」世界が来ればいい。






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