68.Epilogue









…大地に雨が降ると
空気が土の香りになる
濡れた青草の上に伏すのは
夜冷たいシーツの間に滑り込むような
子供じみて楽しい楽しい感じ
見上げると空気は許されないほど澄み渡って
僕が天の果てに落ちていっても
準備は出来ていて
まるで問題ないかのようだ


(雑音)


風が頬に当たり 形を変えて滑っていく
何もかもが静かで
安らかで
本当で
僕は通ったこのない母親の体の中とは
こんなものかと喉を開く


ゆっくりゆっくりと呼吸するが
脈が落ち着く様子はない
今はただ横たわっているのに
心臓は
あの日部屋に飛び込んだときのように
乱れ続けている
昨夜の嵐のように
或いはまた彼女と過ごしている瞬間のように


(雑音)


この重い体
腕 肩 頭 胴 足 そして感覚を
そろそろ彼に返さなくては駄目だ
僕の側に 影のように寄り添うその気配は
僕の生命に刻まれた
約束の証である


時が来たら あげる
僕の持っているものを何もかもあげる
今感じているもの全てを
君の感覚に注ぎ込んで
魂と時間とを
健康な精神の足で支えてお立ち
そして世界を見まわして
美しいもの汚いものを訪ねて歩くといい
時折は狼のように にらむといい



今はまだ
エーテルの中で眠っている君に
時来たりなば
君に――――――