…大地に雨が降ると 
空気が土の香りになる 
濡れた青草の上に伏すのは 
夜冷たいシーツの間に滑り込むような 
子供じみて楽しい楽しい感じ 
見上げると空気は許されないほど澄み渡って 
僕が天の果てに落ちていっても 
準備は出来ていて 
まるで問題ないかのようだ 
  
(雑音) 
  
風が頬に当たり 形を変えて滑っていく 
何もかもが静かで 
安らかで 
本当で 
僕は通ったこのない母親の体の中とは 
こんなものかと喉を開く 
  
ゆっくりゆっくりと呼吸するが 
脈が落ち着く様子はない 
今はただ横たわっているのに 
心臓は 
あの日部屋に飛び込んだときのように 
乱れ続けている 
昨夜の嵐のように 
或いはまた彼女と過ごしている瞬間のように 
  
(雑音) 
  
この重い体 
腕 肩 頭 胴 足 そして感覚を 
そろそろ彼に返さなくては駄目だ 
僕の側に 影のように寄り添うその気配は 
僕の生命に刻まれた 
約束の証である 
  
時が来たら あげる 
僕の持っているものを何もかもあげる 
今感じているもの全てを 
君の感覚に注ぎ込んで 
魂と時間とを 
健康な精神の足で支えてお立ち 
そして世界を見まわして 
美しいもの汚いものを訪ねて歩くといい 
時折は狼のように にらむといい 
 
  
今はまだ 
エーテルの中で眠っている君に 
時来たりなば 
君に――――――
 
  
 
 
 
 
  
  
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