舶来






 走り始めた銀色の車体の中で、僕は寝たふりをし、まぶたの奥で思い出に耽った。
 僕に向かって会釈したときの彼女の眼の、明るく澄んだ輝き。楽しそうな横顔。それからゆっくり歩いていく後姿と、得意げな靴音。


 繰り返し繰り返し、もう忘れようにも忘れられなくなるほど何度もそれをなぞってから、やっとゆっくり、顔を上げた。





 電車は渋谷に着いていた。
大勢の今の人が、あっという間に電車に流れ込んできた。



(EOF)





次へ >>