報告



 最近の結婚式の頭の悪さったらないな。
なんだよこの取ってつけたような音楽は?
 こんなもんならまあ人から文句も出ないだろうっていう飾りつけ、選曲。気の抜けた料理と酒。給仕がみんなバイトで何のこだわりもないから、見てくれだけで全然うまくない。
 司会がでたらめだらけの二人の馴れ初めを作り声で語る。初めて会った時の印象なんて、誰も興味ねえっつうの。

 茶番よ茶番。茶番のこどもよ僕達は♪

 ていうか俺みたいな男、よく式に呼ぶね。
――あいつも。



「お前、よく来たなあ」
 隣で安積が寧ろほっとしたように。
「嫌いだろ。こういうカタログ選択式の適当ショー」
ワインをかぱかぱ飲みながら。
「しかもお前、はなえと結構仲良かったじゃん」
 ああ。そりゃ三週間で別れたお前よりは『結構』な。
「気付いてる? このテーブル…」
「ああよ」
 テーブルにかけた六名。会社関係とまとめられていたが、要は昔の男舟。
 なんという真似をするんだか。みんな神妙な顔つきで、黙々と料理を食ってるじゃないか。
「時々、向こうからおかしな目でこっち見てんの」
「お前、飲みすぎじゃないか? 毎週ベロベロになってるって聞いたぞ。大丈夫か?」
「過去を見るような遠い目でこっち見てやがんの。くっくっく」
 肘に当たりそうになったグラスを遠ざけながら安積を見ると、馬に踏まれたようなツラだった。
 そらぞらしく天井からヒットチャート入りした音楽が降ってくる。愛がどうしたとか。一生どうしたとか、中高生向けのうそくさい歌。
 それが多分、安積も、俺も、たまらん。

 あいつはこの歌がイメージするような女じゃないですよ。
 司会の人間が話してるような善良な女じゃないですよ。
 感涙してる女どもは親類一同の白けたテーブルをよく見て。
 ――そんなあいつが嫌いってわけじゃない。全然そうじゃない。けどこの上から押しかぶさってくる砂糖の入った生クリームみたいな安っぽい諸要素は、たまらん。
 やめてくれよおおお。
白っぽいウソの上にしゃあしゃあとウソを重ねてワケのわからん多段ケーキを作るのは。


 途中で安積が吐きそうになったんでかえって救われた。一緒に中座して、彼を手洗いに突っ込んで、煙草スペースでぷかぷかふかす。脂っこい料理が胃にもたれてムカムカしていた。
 とい面のどっかの親父がやっぱり煙草を吸いながら、曰く言いがたい顔をしている。
 雰囲気が上品で、新郎にそっくりだったからそっち側の客だろうが、
「…どうも雰囲気が、おかしいような…」
戸惑っているような様子だ。


 何でか両親への手紙なんか朗読させて(参観日か!)満場にむりやり涙を流させた挙句、やっとのことで式は終わった。
 既にグダグダなのに、さらに出口で新郎新婦がお土産を手渡すからそれを取って帰れと仰る。
 半死半生の安積と一緒にその前に立ったら、はなえは呆れたような笑みを浮かべた。
「――どうしたの? ――何かあった? ――大丈夫?」
 傷つき易い安積の神経を守るために、俺は手を前に突き出し、土産を強奪して帰る。



 世界には、飲み込めるものと飲み込めないものがあるのです。








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