「――借金のことは、私のほうでいいようにしておこう。だが今度、借り入れる時は、事前に一言相談をしたまえ。 それより重要なことは、日曜日には礼拝に行くことだ、アントーニオ。近所の人々が、君の事をどれほど恐れているか。 君はかの呪われたルシフェルの手下だと見なされているんだぞ。 この友の気持ちも分かってくれ。かつて大学で秀才の名をほしいままにした君が、このような不健康な工房にこもりきり、徒に青春と健康とを空費しているとは。君を崇拝していた当時の私が見たら、おおいに涙することだろう」 「涙なら、既にこの街中を取り巻いて、ひたひたと足元まで打ち寄せている」 「なんだって?」 「海水だ。人の涙は海水に極めて近い。我々は涙の上に暮らしている」 「…アントーニオ。三度の食事をきちんと摂り、夜には眠り、昼には散歩をするんだ。…君のような賢人に、こんな浅知恵を授けねばならぬとは」 「……」 「それに髪の毛を切り、髭を剃り、服を仕立てて、時々は街へ出かけたまえ。 君に家庭を持てなどとは言わない…。だがせめて、人に敵意がないことくらいは示さなければ。異端騒動はこの街にも無縁ではない。 …ではな」 |
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