レヴォリュシオン エリート
エピローグ



エピローグ




『あのっさー、今、甥っ子と、お前の息子と一緒に遊んでたんだけどねー? あ? ゲームだって。はいはい。そうですよう。
 あれな、誠ってホントお前の若い頃とそっくりな。ぶっ倒れるまで助け呼べないとこなんか完全にお前の縮小版だぜ。
 しかもお前よりデキがいいかも知れねえな。あんまり粘るんでついぶっ潰してもらっちゃった。今頃マジにどっかで倒れてるかもしれねえぞ。
 だいたいお前、悔しくないわけ? 息子が、自分より俺なんかと一緒に遊んでてさー。
 は? バーカ。オンラインゲームだっつってんだろ? 俺が知るかよ。心配だったらてめえが行け。
――首つってなきゃいいけどな』



 深夜三時過ぎ、突然車を飛ばして舞浜までやってきた父親に連れられて、曽房誠は小金井の自宅に戻った。
 風邪をこじらせ、発熱していたため、帰路、彼は後部座席で横になっていた。
 大きなビルの間をすり抜けるように伸びる首都高を走っている最中、小さな呟きがその口から漏れた。父親はその声に頷いただけで、返事はしなかった。
 翌日、病院へ連れて行かれた彼は、
なんでもっと早く来なかったの。肺炎ですよ。
若い女医に叱られた。



*



 MMORPG『レヴォリュシオン・エリート』ベータ版は、その最終日に大革命が起きるという大波乱の果てに、つつがなくサービスを終了した。
 現在正式版のリリースに向け、準備がすすめられている最中で、ユーザー達はあちこちで『あの日』のことを語り合いながら、再びその世界が立ち現れる日のことを待っている。



*



 関東のバカ長い冬が、やっと終わった。
 今年の桜は一八日くらいから綻び始め、突然汗が出るくらい暖かになった二〇日以降、もう止まらないとばかりに一斉に花を開いた。
 小金井にはやたらと桜が植わっている。昼から酒を飲みたい親父連は、今年も地の利を生かしてうきうきといい花見の場所を取る。
 春休みに入った子供らも、うまい料理を食べ、お菓子袋をもらうことを目当てに現金なつらを下げて集まる。
 公園は大変な人出で、桜より人が多いくらいで、休日だ。みんな気の緩みきった、幸せそうな顔をしている。
 そいつは、どうやってその場所へ入って来たらいいのか考えあぐねた様子で、一人、離れた場所に立っていた。
 あの咳がやっぱりただの風邪じゃなくて、栄養失調だとか言われて点滴までしたらしいが、そんなこと今は全然分からないくらい、当たり前に困り顔をしていた。


 場所は毎年一緒だから、迷うことはない。そこには既に、幼馴染である大森未来も、安倍太朗も、兄妹達と一緒に集まっている。
 今年に限って、年も性別もバラバラな、見慣れぬ面々が妙にたくさん加わっていたが、それはゲームで知り合った友達なんだと、彼らは親に説明していた。
 勿論俺もそこにいた。眼鏡君の横で生意気なことを言う小学生のガキをグリグリしながら、また遅れてる親父と、そいつの入ってくるのを待っていた。
 桜にも負けず明るく華やぐみんなの声が、彼の勇気をくじき、その足をますます重たくする。
 動けずにいたそいつの腕を、後ろからきた女の子が、そっと取った。
 振り向く彼に江尻愛はにこっと笑いかける。



 この公園は桜を植えすぎだ。
 咲きほこり、重なり合い、上から下へとまるで雪じみて降る桜の中を、三人は、俺達のいるところまで、雲を踏むみたいにゆっくりと、ゆっくりと、歩いてきた。








レヴォリュシオン・エリート
- 完 -







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