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故森幻想
The Dream Killing You
= エピローグ =



【付記】
 大陸歴一三一五年から一六年にかけて起こった東部と中央との緊張は、明確な突破を迎えることなく終息した。
 詳細は不明だが、ロシャ男爵領での内政的混乱がその原因と言われている。
 一時、同男爵家の末娘がアルアニスの子を宿しているなどという風評も流れたが、その事実は無く、同女はこの後、中東部の貴族のもとへと嫁ぎ、一男一女を設けたとの記録が残っている。




 旅芸人ジリオ・キーツは、現在「相国記」と呼ばれている一連の長歌の作者として歴史に名を残している。他の多くの口承文芸作家と同様、本人についてのまとまった記録は、ほぼ皆無である。
 恐らくトリエントーレ政府側の手をかわしながら、一生を放浪のうちに過ごしたのだと推測される。
 死没年も不明であり、現在彼の実在を示す物は、出身地とされている旧イステル公国の首都イストリアに、彼愛用と伝えられる長琴と、どういうわけか中部の修道院に直筆の「相国記」原本が残されているのみである。
 そこに誰か彼の親戚なり縁故なり、親しい女性がいたのだろうと言われているが、それが具体的にどのような女性だったのか、修道院の記録には何も残されていない。
 そのため修道女ではなく、何らかの事情でかくまわれていた女性であったとされている。




 トリエントーレ王国はその後、過去アルベラ海峡を包括したなかでも最大かつ最強の国家として長らく維持されたが、大陸暦一三七〇年、内紛により滅亡した。





故森幻想 終わり

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