・・忘却のアカンサス・・










一時は
確かに世の中のほぼ全てに腹が立ちました。
愛するものであればあるほど糾弾の矛は鋭く、
私の思春は家族や先生を殊更に振り回して判りました。
私は棘であると。
一部分がそうなのではなく、
世界という大樹に貼り付いた
私自身が棘なのだと。
そういう存在なのだと。





けれどもそれは私の皮の一つに過ぎなかった。
今ようやくべりべりとそれを剥がして私は知りました
脱皮という変態が人間にもあるのだと。
もっとも蛇のようにそれを一人でやり遂げるのではなく、
だれか人の手が必要だというところが社会の面倒ですが、
口に出して言おうものならきっとあなたは笑う。
私の服を剥がしたその指で皮まで剥がしていたのかと笑う。





あなたが降りた後の電車にいる私は一人落ち着きません。
人の視線が痛くてたまりません。
脱皮したての肌が朱に焼けます。
秘密が冷淡にボロボロこぼれだして行くように思い
身を竦めた先にふと未だに
十五にもならない子を見つけて私は泣きそうになりました。





ある時突然 成長が止まり、
身長はおろか性徴も出尽くし、
全ての可能性が沈黙を始める。
ああここまでなのだ。
世界の終りではなく自分の終りが先に見え、
ああここまでなのだ。と思う矢先に
転がり込んでくる人間同士の赦し合いや愛撫や絶頂や。





――――――――棘は必ず落とされる
長続きしないから人は許す。
私はつまり順調なのだ。
昨晩初めて男に抱かれ、
そして益々と順調な人になったのだ。





流れてくる現在や未来を思えば、
それがつまらないことだとは言えません。
ただそうやって皮が剥け ネタが割れ 底が見えて、
ただ一枚の完全体になってしまうことが 恥ずかしい。
十五の棘を前にその眼差しを浴びると 私は
その完全なる不完全に立ち向かったとき 私は
確かにかつてはそうであったのに
薄情なまでに何もかも忘れてあまりにも簡単に満足するこの性が
――――――目をつぶるほどに心の底から恥ずかしいのです。













---EOF-









02.04.18
to be continued


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